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制作者 Albert Hsieh
更新日 September 29, 2022

欧州時間9月14日、欧州連合(EU)で強制労働製品に関する法案が提出されました。立法により、強制労働で生産された製品がEU市場に入ることを徹底的に排除し、また、EUが強制労働に関与した製品を輸出することを防ぐ狙いです。米国が2021年末に可決したウイグル強制労働防止法(Uyghur Forced Labor Prevention Act、略称UFLPA)に続き、大きな市場で提出された強制労働を制限する法となります。
 

欧州法案の内容分析と比較

EUの新法案はまだ初期の提案段階ですが、欧州は世界第三の消費市場であり、中国に次ぐ太陽光発電需要の大きな市場でもあり、最終消費者や企業、サプライチェーン(供給網)に対して大きな影響力があります。このためInfoLinkは、現時点の提案内容と、既に施行されている米国のUFLPAとを比較し、産業に対する影響を評価しました。

まず、制限の対象についてみてみます。米国のUFLPAは中国・新疆ウイグル自治区のサプライチェーンを対象とし、多結晶シリコン関連産業の輸入制限に重点を置いています。これとは異なり、EUの現時点の法案は、特定の地域や産業を対象とはしていません。EU市場に出入りする全ての製品について、強制労働が関わっていれば禁止対象と提示しているのみで、制限の範囲は広く、ターゲット性はありません。

執行力については、UFLPAが有罪推定を採用しており、新疆ウイグル自治区のサプライチェーンに関わっている製品であれば、強制労働製品とみなされ、米国税関が違反商品保留命令を出します。この場合、輸入企業は自ら対象製品ではないことの証明を提出する必要があります。一方、EUの法案では、証拠に基づく通報により、製品の差し押さえ調査を行うかどうかの検討がなされます。

法案可決後の施行は、EU加盟各国が担います。EUは情報フローメカニズムを立ち上げ、加盟各国が統一した基準を構築できるようにします。

また、米国のUFLPAが依然として審査やデータ提出の基準を公表していないのとは異なり、EUの法案では、法案の正式公布から24カ月以内にデューデリジェンス(due diligence)基準を公表する予定です。
現時点では、法案は提出されたばかりの段階で、実際に可決するのは2023年の見通し。法案でも、実際の施行は法案が正式に公布されてから24カ月後としていることから、実際の生産に影響が及ぶ可能性があるのは、早くて2025年となります。

米国UFLPA
 

太陽光発電業界への影響

現時点では、EU法案は太陽光発電サプライチェーン(供給網)や特定の生産地をターゲットにはしていません。しかし、中国の新疆ウイグル自治区は近年、強制労働問題の渦中にあり、この先、EU法案が可決されれば影響を受ける可能性があります。このためInfoLinkは、新疆ウイグル自治区の太陽光発電サプライチェーンが制限を受けると仮定し、世界の太陽光発電業界が今後受ける影響を予測しました。

新疆ウイグル自治区は現在も、世界最大の多結晶シリコン生産地です。しかしメーカーは、米国への輸出が困難である現状に対応するため、今後数年に新設する生産能力の多くを同自治区以外のエリアで予定しています。同自治区での新生産能力を計画しているメーカーも少ないながらありますが、実際のところは各社の計画の進展次第です。全体的な多結晶シリコン生産能力をみてみると、太陽光発電業界の川上・川下の生産能力ミスマッチのため、価格が2020年下半期から上昇し続けており、多くのメーカーが相次ぎ増産に乗り出しています。図からわかるように、新疆ウイグル自治区の多結晶シリコン生産能力は2021年末に31.8万トンに達しており、世界全体に占める割合が44%とピークに達します。その後、同自治区以外の新たな生産能力が稼働し始めることに伴い、同自治区の生産能力が占める割合は低下していきます。新たな生産能力は主に、内モンゴルや四川、青海といった中国の新疆ウイグル自治区以外のエリアで、強制労働問題があまりないエリアとなっています。新疆ウイグル自治区の生産能力は高まり続け、EU法案が発効する2025年には56.0万トンに達すると見込まれます。しかし、世界の生産能力に占める割合は21%と、同自治区の多結晶シリコンによる太陽光発電業界への影響力は低下していきます。

シリコン材料生産能力の変化
 

サプライチェーンと需要の比較

最終需要についてみてみると、EUと米国がいずれも太陽光発電モジュール需要の非常に大きな市場となっています。しかも、両市場とも現地の太陽光発電サプライチェーンが完全ではなく、十分な太陽光発電モジュールを調達するには輸入の必要があり、その調達先は中国や東南アジア諸国です。InfoLinkの税関データ統計によると、中国は今年1-8月、欧州に60.1GWのモジュールを輸出。欧州市場は中国によるモジュール供給への依存度が高くなっています。

欧州はもともと、世界でもエネルギー転換に最も積極的なエリアでした。2022年にはさらに、地域紛争で従来型エネルギーの価格が高騰したことを受けて、従来型の化石エネルギー依存からの脱却加速に向け、新エネルギー政策を打ち出しています。例えば、ロシア産エネルギー依存から脱するための計画「RE Power EU」では、太陽光発電の累計設置容量を2025年に320GW、2030年には600GWとする計画です。

多結晶シリコンの供給と、EU・米国両エリアの太陽光発電モジュール最終需要を単純比較してみます。両エリアの今後のモジュール需要は急速に高まり、2023年以降の年間需要は計100GW以上、2025年の楽観的な予測では計200GWに達します。一方、供給側については、中国の新疆ウイグル自治区以外の地域でのシリコンの大規模な増産に加えて、もともとあった中国以外の多結晶シリコン生産能力で、2023年時点で300GW以上のモジュール製造をまかなえ、供給量はさらに増加しています。米、欧の求めるデータ提出基準が明確で達成可能なものであれば、両市場の最終需要を満たすことは十分に可能です。

欧米の最終需要とシリコン材料供給の比較注:UFLPA施行以降、一部メーカーの対米輸出が制限されたのは主に多結晶シリコンの川上材料である金属ケイ素の生産証明を提出できないため

極端な状況を想定してみます。欧米が中国以外のサプライチェーンのみで需要をまかなうと、予測では、中国以外の供給は今後、川上の多結晶シリコンから川下のモジュールまで全て、タイトまたは不足の状態になります。特に、川上の多結晶シリコンとシリコンウエハーはコスト的強みから、中国が世界の生産能力の95%以上を占めています。このため、中国以外の各国が大規模な補助を打ち出したとしても、短期のうちに完全なサプライチェーンを構築し、欧米の膨大な需要に対応するのは難しいでしょう。

中国以外のサプライチェーンと欧米需要の比較

現時点の太陽光発電業界のサプライチェーン分布では、欧米という2大市場の需要を余裕をもって満たすことができます。輸入に際して明確な認定ができないといったことや、極端な状況が生じない限り、今後の欧米市場では、供給の逼迫や不足は起きにくいと考えられます。

現時点では、EUの法案は最初期の提案段階であり、規定の多くが明らかではありません。
さらには、実際に発効するのは2025年の見通しで、これに沿えば、サプライチェーンのメーカー各社には十分な準備期間があります。現時点の法案内容からすると、EUは特定の地域や製品を対象とはしておらず、税関も主導的に製品を差し押さえることはありません。今後、デューデリジェンスの方法など、関連のガイダンス発表も予定されており、メーカーがEU市場に輸出入する際の判断基準がそろってくるでしょう。

短期的にはリスクはなく、欧米では現在、自前の太陽光発電サプライチェーン構築も計画しています。しかし、時間や規模、コストなどを考えると、モジュールの輸入が依然として需要を満たすための第一選択となります。新法案に対応するため、欧州メーカーは今後、前もって自社のサプライチェーンに対するデューデリジェンスを実施するでしょう。その対象は、足元の多結晶シリコンからモジュールまでだけでなく、サプライチェーンのさらに川上である金属ケイ素などの供給源、あるいは製造過程で使われる補助材料にも及ぶでしょう。または、前もって強制労働問題に関わる地域からは完全に独立したサプライチェーンを構築したり戦略パートナーを探したりし、今後輸入する製品が関連法に触れるリスクが

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